フランスの小話
確か、山本周五郎の随筆にフランスの小話として紹介してあったかと思うのを、ずっと記憶している。タイトルは『君は何を煩悶するのか』。
君は何を煩悶するのか。問題があるとしたら、それは二つだ。
君が健康か病気であるかだ。
健康であるなら、それで問題ない。しかし病気であるなら、問題は二つだ。
その病気は治るのか治らないのか。
治るなら、それで問題ない。しかし治らないのなら、問題は二つだ。
病気によって死ぬのか、死なないのか。
死なないなら、それで問題ない。しかし死ぬのなら、問題は二つだ。
死んだあと、君は天国にいくか、地獄に行くのか。
天国にいくなら、それで問題ない。しかし地獄にいくのなら、問題は二つだ。
と、ここまで聞いて、そもそも君は地獄なんてものを信じているのか? 信じていないのなら、君が煩悶することなど、何もないんだよ。
雲散霧消するロジック
以下、蛇足。この話のいいところは、問いつめ、思い詰めた挙句が、あっさりと、問題点を消失しているところだろう。
思い悩むことがあったとしても、しばしばこの話を思い出して、気持ちが軽くなることがある。
そもそも、そんなに深刻なことは起こっていないという事実を忘れて、衝動的に偏った見方をしてしまう。だから行き詰まる。
普通、行き詰まらないように、柔軟に考えようとするのに、ここでは反対に問いつめる。
問いつめた結果、まるでタマネギの皮を剥き続けたように、本来あるだろう答えが無かったことに気付く。
禅問答の中に似たような話がある。
悩み苦しむ弟子が、師僧に訴える。悩みが消えないのを助けてほしいと。
師僧は包丁を取り出し、一言、応える。
「悩みをここに出してごらん。二度に悩まされないように、切り刻んでやろう」
弟子はあっと、悟ったという。
小難しい、仮説と証明、反証ではない。一回、クールダウンしよ?
沢山の名言より、シンプルな言葉が実は強いのではないだろうか。
多分、鎌倉の大仏さん。 鞍馬天狗の作者大佛次郎はこの近くに住んでいた。 |
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