両切りピースならぬ
ピースは葉の香りに酸味の強い特徴があり、ニコチンも多い。
しかしフィルタが現代のように開発されていなかった時代は、ピースやハイライトが主流であり、昔からどちらもフィルタがない、(フィルタ付きも販売されているが)紙巻きの状態であった。
フィルタでニコチンを少なくして、喫煙の有毒性を緩和しようというのが、浅しいと主張する古老もいた。死ぬ時は死ぬのだと。
そうした中で、リバイバルに90年代後半に発売されたのが、両切りのゴールデンバットであった。
価格が圧倒的に安かったのは、フィルタを使わないからだと思っていた。
しかし違った。
実際はタバコを銘柄ごとに製造する際に、こぼれる葉がある。これらを集めて、作ったという。だから、ピースのような酸味も、ハイライトのような辛みもはっきりしない。いわばブレンドなのだと。
そうとは知らない人が、紙巻きを湿らせないように、渋い顔で唇をすぼめながら、ゴールデンバットを吸って言った。
「色々試したが、一番これが気に入ってる」
ほんとに? エスプレッソでも、カフェオレでも、ブラックでもなく? 香料を足しただけの缶コーヒーが一番うまいって?
目黒とさんま
三代将軍家光は庶民の生活を知るために、お忍びで江戸を徘徊していたという(後の八代将軍”暴れん坊”吉宗も含めて、どうも鎌倉時代の執権北条時頼をモチーフにした伝承臭いが)。そのイメージで作られたのが、古典落語の『目黒のさんま』。
お忍びで将軍が江戸を徘徊し、目黒で安い、脂の少ないさんまを食べたのが気に入った。江戸城に帰って、思い出してさんまを所望した。
すると脂の乗った、上等なさんまが出される。殿様がっかり。
「ううん、さんまは目黒に限るな」
というのがサゲ。
食通ぶっているが、おバカ、という揶揄である。間違いなく明治以降の作品。
ゴールデンバットを吸うのもいい。目黒でさんまを食べるのもいい。
しかし、それで通を気取っていると、何とも空しい。
もう一つ、古典落語のお気に入り『あくび指南』。
本当に”粋な”あくびを教えるというところに、行こうと、くま五郎に、連れて行かれる八五郎。
「本当に、風情のあるあくびというのは、春先のうららかな隅田川で釣り糸を垂れて、こくりこくり、ふぁあぁ」
などと、師匠に習っている。その稽古を眺めて、退屈し切った八五郎が思わず、ふぁあぁ。
「おや、お連れがお上手」
というサゲ。食欲にしても、あくびにしても、無心なものかなう訳が無い。
お上手なあくびにございます |
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