2015年7月21日火曜日

シルクロードぞわぞわ

最近は見なくなった、博物館の風景。

5年ほど前の、京都や大阪、奈良で博物館にいくと、グッズコーナーに、業者が実演販売みたいに商品を広げていた。

かなり重たそうなテレビを置いて、喜太郎の眠気を誘う調べに乗せてNHKの『シルクロード』のCMクリップをリフレインでずっと流しているのだ。

展示テーマに沿ったものは一部で、あとは山川書店の世界史年表(たまにソ連が載ってたりする!)や、台湾製の置物なども置いていた。

売れないんだろうなぁ。

ある日、見ると、ブルース・リーのトランプがあった。『燃えよドラゴン』の写真をコラージュして印刷している。その中の一枚に目が釘付けになる。ブルースに髪の毛を掴まれている、名もなきスタントマン。他でもない、無名時代のジャッキー・チェンである。

ゴールデン・ハーベスト移籍前で、二重に手術していない、ジャッキーの息子そっくりな男が、歯を食いしばってのけぞっている。マニア垂涎の一枚である。

「これ、ブルースで、こっちがジャッキーなんですよね」

思わず店員に話しかけてしまう。お? 分かる? その一枚があるから、そのトランプが結構売れて。あと、ちょっとしか残ってないんだわ。

そう言われたら、迷わずレジに持って行っただろう。一つは保存用。一つは見せびらかす用。一つはプレゼント用。最後の一つは見せびらかし用の予備か。

しかし店員さんは、弱々しい微笑で答えた。

「誰が誰か知らないんです。なんか、そうみたいですね」

急に色あせる。レアなものを販売している人から、レアなものを手にいれることができるかも、と無意識に期待していたが、そうではなかったのだ。待て、神戸の南京町で売ってたかも。そんな気がしてきたので、結局買わずに置いてきた。全然後悔していないし、買ったら後悔していただろう。4組はいらんかったと。

80年代。NHKのシルクロードは確かに、当時にしてみれば、結構な制作費がかかっていただろう。民放の『西遊記』など、中央アジアへの憧憬をかきたてるものであっただろう。

シルクロードの終着地が奈良東大寺だと習い、獅子狩紋錦についてのエッセイを、国語の時間にならって、大陸ロマンを夢想することもできた。

しかし、失われた牧歌的な、シルクロードの風景を、テレビでのんびり見るという内容であったのに、コンバクトにDVDでいつでも手際よく見れるということに、矛盾を感じた。

案の定、売れなかったのだろう。販売している業者は、今はほとんど見かけない。

欧米列強はアフリカ大陸を侵略し、東アジアを席巻したあと、20世紀初頭に、最後の秘境と呼んだのが、中央アジアであった。

ゆえに日本人も、未だにロマンを感じるのではないだろうか。それを効率よく商品にしようとして、失敗したのか。

しかしあの業者が大きな荷物にまとめて、出て行くのに、バンに詰め込んでいったような気がしない。

なぜか台車に売れ残った書籍や、置物を乗せ、風呂敷をかけて歩き始めるのだ。きっとそうだ。あの、喜太郎の曲に乗せて、次の博物館に向けて、歩いていくのだ。

なんとなく、それが自然なような気がする。


島根の人に「砂丘ってないの?」と聞くと
本気で怒られるらしい。

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