2015年7月2日木曜日

舌禍のいわれ

それまで第二次世界大戦を主題にした作品を描こうとすると、マクリーンに象徴されるように、連合国側が主人公であり、ドイツ人はステレオタイプに極悪人のカルト教団のように描かれていた。

しかしイギリス人作家ジャック・ヒギンズが描いた『鷲は舞い降りた』は、ナチスドイツの落下傘部隊クルト・シュタイナ大佐を主人公に、チャーチル誘拐作戦を描く。

ユダヤ人の娘を助けた罪で、激戦地においやられたクルトに、父はいう。

「俺たちは、あのハインリッヒ・ヒムラーのような殺人鬼を守るために、戦わないといけないというのか」

狂気の時代にいて、自らの美学に殉じていこうとする兵士たちを、ヒギンズは描こうとする。(晩年は現代版のデブリンものとして、ショーン・ディロンがアメリカに雇われたりと、結構大味な作品で人気を失速させている)

つまり簡単に正義と悪を作っていない。ル・カレほどではないが、大人が読むに相応しい、世界観を背景に描いている。

少年は単純なものを好む。ゆえに、正義を特に愛するとは、確かシェークスピアであったと思う。

その通り。クラスの女子の気をひく前は、地球の平和を守る話題に、夢中になっていた記憶がある。

ある、日本人の作家の作品が、数年前ベストセラーになった。先の大戦を題材にしたものである。

戦前から続く、石油会社を題材にした作品もあったので、すすめられるままに読んでみたが、ひどかった。そして、その大戦を取り扱ったものを読んで、思った。本当にひどいと。

要は悪人と正義が明確になっており、ほとんど水戸黄門状態なのだ。驚くほど、稚拙な文体に、単調な展開で読み終わるのに、予想以上の滞留があった。

問題は正義と悪が単純に色分けされているため、悪者に対して、ステレオタイプの理解しかないこと。奥行きがまるでないことだ。黒い仮面をかぶった、黒い服の男が、黒い銃を取り出して、黒い弾丸を撃ってくる、といった調子である。

案の定、歌手の晩年を題材にしたものを描いて、悪役にされた人たちから名誉毀損で訴えられた。

さらには与党の何がしかの会に参加して、舌禍を招いた。

その軽薄さに、いつも驚いている。不勉強で、孫引きで、時流に乗れば、それでいいというチャラさ。

何か、ひどくバカにされた気分を拭えない。本来の議論を空転させる、声の大きな人。彼が本質をわかっているとは、にわかには信じがたい。

空からみれば国境なんてないさ、
とかいう前の時代は、敵地に送り込むために
落下傘は便利だったみたい。

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