日本の仏教美術史で習うことは、飛鳥時代の半跏思惟像のあとは、いくつか代表的なものを並べるだけ。
はっきりいって東大寺建立まで、大した仏像は取り上げられない。
東大寺のインパクトが大きすぎて、それ以前となれば、結構、偶像的な仏像しかないと思っていた。
ところが奈良国立博物館で公開されている『白鳳ー花ひらく仏教美術ー』は、この仏教美術のブランクを取り上げた内容である。
正確に歴史学の時代区分として、白鳳という用語はない。美術史のなかで、用いられていた用語である。時間として、大化の改新(645)から、平城京の遷都(710)までの間を指す。
この結構マイナーな時代に造像された仏像は、決して期待を裏切らない。
時代的な特徴として、観音菩薩や弥勒菩薩がメインに取り上げられるが、北魏のフォーマットに似せたものから、次第にしなやかな体型に変わっていく変遷を見ていくことができる。
どうも平安時代=観念的で、仏像も抽象的。鎌倉時代=新仏教の登場などにリンクして、仏像も写実的、というイメージを持っていた。
しかし鎌倉時代の重源がプロデュースするより、五百年前に写実的(憤怒尊はないが)な造像が完成していたのだ。(鎌倉時代だけが、写実的だと思っていたら、ショックを受けるだろう。)
花ひらく仏教美術、という柔らかなタイトルな割に、結構責めた内容であると思える。
注目したいのは、定型化した瓔珞や、裳裾のフォルムを持ちながら、胸や腹部にしっかりと筋肉を蓄え、迫力ある姿に仕上がっている、新旧のリミックスが多いということ。
さらに今回は、展示の照明がいい。
特に31メートルを超える、薬師寺月光菩薩立像(国宝)は圧巻のスケール。
厳密には信仰の対象だから、もっと暗い場所に置かれ、全体を見ることができないだろう。しかし今回の展示では、全身を暗い照明の中に露出させ、逞しい姿を堂々と披露している。
薬師寺東塔の水煙も、実は照明によって、水煙なのに、紅蓮の炎のような影を、館内の壁に大きく描いている。
配置にも凝った演出が、いかに面白いのか。工夫された様子がしのばれる。
平安時代以前の、定型化されない、伸びやかな造像を堪能できる展示だ。
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