ずっと以前の職場で、年配の上司が語っていた。
「高度経済成長期の後だったが、スポーツ新聞を電車の中で読んでると、見ず知らずの年上の人に怒られたもんだ」
次の駅で降ろされた挙句、(公共の場で、大の大人が野球や相撲、お馬さんの情報を貪り読むとは恥ずかしくないのか)という叱責であったという。
概して日本人のモラルや公共心の高さは、評価される。それこうした老紳士の叱責が原動力だったのかもしれない。
某日、筑摩の世界の名著でキルケゴールを安く見つけた。待ちきれず、電車の中で開く。
もともと高校生向けに編纂されたのか、このシリーズ。分かりやすいと定評だったらしいが、一向に頭に入ってこない。絶望が死に至るというオチは知っているが、全然内容が分からない。
電車を降りる間際に、本をチラチラ覗き込んでいたおっちゃんがいう。
「難しいのを読んでるな」
一瞬、厭味かと思った。顔を見ると感心した顔だった。余計にイラっとした。
某日、これまた安く買った乱歩の少年探偵団シリーズを車中でこっそり開く。小林少年が例によって潜入するシーンで盛り上がる。
目的地の駅で降りても、幸い、誰にも怒られなかった。
いや、読んでいるものに、おっぱいが印刷されていない限り、怒られないのではないか? いや、印刷されていても、怒られないのではないか。
0 件のコメント:
コメントを投稿